厚生年金は本当に「払い損」なのか?利回り計算から見えた真実と3つの役割

保険・リスク管理

前回の記事では、国民年金が“民間では絶対に再現できない総合保険”であり、実質利回り2〜3%の安全資産として極めて優秀であることを、データと制度面から解説しました。

今回はその続編として、私たち会社員が加入する「厚生年金(2階部分)」に焦点を当てます。

毎月の給与明細を見るたびに、天引きされる厚生年金保険料の大きさに憤りを感じている人も多いでしょう。

しかし、厚生年金には“老後の年金”というイメージを大きく超えた、手厚い保険としての機能が備わっています。 さらに、利回りの観点から見ても、単純に「払い損」とは言い切れません。

今回は、厚生年金の3つの役割を整理したうえで、実際の受取利回り(IRR)をシミュレーションし、会社員が本当に知るべき“年金の本当の姿”を紐解いていきます。

※本記事において年率リターンは、実際の資産推移に近い幾何平均(CAGR)で算出しています。

まず知っておきたい、厚生年金の「3つの役割」

年金と聞くと、老後にもらえる「老齢年金」ばかりをイメージしがちです。国民年金の記事でも紹介していますが、公的年金には 「老齢・障害・遺族」 という3つの強力なセーフティネットとしての役割があります。(国民年金と厚生年金では若干受給要件が異なる部分があります。)

老齢厚生年金(長生きに対する保険)

老後の生活を支える柱です。原則65歳から、亡くなるまで一生涯受け取ることができます。

  • 受給要件:受給資格期間(国民年金などの加入期間を含め10年以上)を満たしており、厚生年金に1ヶ月以上(65歳未満からの特別支給の老齢厚生年金は1年以上)加入していた期間があること。
  • どれくらいもらえるか:国民年金(基礎年金)に上乗せして支給されます。厚生年金部分の年金額は、加入期間中の給与や賞与の平均(平均標準報酬額)と加入月数によって決まります。計算式は以下の通りです。

老齢厚生年金(報酬比例部分)= 平均標準報酬額 × 5.481/1000 × 加入月数

※実際には平均標準報酬額は実際に得ていた標準報酬額に再評価率がかけられて算出されます。本記事のシミュレーションでは、平均標準報酬額を一定と仮定し、再評価率の影響は考慮していません。

※平成15年3月以前の加入期間のある方は算出方法が異なります。

障害厚生年金(病気やケガに対する保険)

現役世代であっても、病気やケガで障害が残り、生活や仕事に支障が出た場合に支給されます。

  • 受給要件:初診日に厚生年金に加入しており、障害等級1級〜3級のいずれかに該当すること。その上で、一定の保険料納付要件を満たしていること。
  • どれくらいもらえるか国民年金の障害基礎年金(1・2級のみ)に上乗せされるだけでなく、基礎年金の対象とならない軽度の障害(3級)でも厚生年金からは支給されます。3級でも報酬比例部分と同額(加入期間が300月に満たない場合でも、加入月数が“300月として計算”される)が支給され、1級、2級の場合はさらに年金が上乗せされます。

遺族厚生年金(残された家族に対する保険)

家の生計を支える人が亡くなった場合、残された家族の生活を保障する制度です。

  • 受給要件:厚生年金加入中、または一定の要件を満たす元加入者が死亡した際、その人によって生計を維持されていた遺族(配偶者、子、父母など)に支給されます。
  • どれくらいもらえるか:亡くなった方の老齢厚生年金の「報酬比例部分の4分の3」が目安です。18歳未満の子がいれば遺族基礎年金も併せて支給されます。こちらも障害厚生年金と同じく、加入期間が300月に満たない場合でも、加入月数が“300月として計算”されるルールがあります。

また、遺族厚生年金には歴史的な制度設計の名残があり、妻は受給しやすい一方、夫は55歳以上でないと受給権が発生しないという性差があります。 同じ保険料を払っているにもかかわらず、ここだけ扱いが異なる点は、男性の立場からすると少しモヤっとする部分でもあります。

独自シミュレーションで検証!厚生年金の利回り

「障害や遺族への保障が手厚いのはわかったけれど、やっぱり老後にいくらもらえるのかが一番気になる」というのが本音でしょう。

そこで、「25歳から60歳までの35年間を会社員として働き、再評価後の平均報酬額が一定だった」と仮定して、受給開始年齢や死亡年齢ごとの 年金の受取利回り(内部収益率:IRR) をシミュレーションしました。

※本シミュレーションでは厚生年金部分のみの利回り(パターンA)は「25歳から60歳まで厚生年金を払い続けた」前提で計算しています。国民年金を含めた総合利回り(パターンB)は、20〜24歳は国民年金のみ、25歳から厚生年金に加入したという一般的な会社員のモデルケースを前提としています。

※本シミュレーションは名目ベースで行っており、将来の物価・賃金変動は考慮していません。

パターンA:厚生年金(報酬比例部分)のみの利回り

厚生年金(報酬比例部分)IRR(内部収益率)

受給開始年齢65656565607075
平均報酬額400,000500,000600,000700,000400,000400,000400,000
75歳時点-1.91%-1.91%-1.91%-1.91%-1.55%-2.95%-100.00%
80歳時点-0.36%-0.36%-0.36%-0.36%-0.34%-0.50%-1.73%
85歳時点0.55%0.55%0.55%0.55%0.43%0.69%0.26%
90歳時点1.15%1.15%1.15%1.15%0.96%1.41%1.25%

※75歳受給開始の場合、75歳時点ではまだ受給が始まっていないため IRR が -100% となります。

※繰り上げ受給は、1ヶ月あたり0.4%ずつ減額され、60歳で受け取ると最大24%のマイナスになります。一方、繰り下げ受給は1ヶ月あたり0.7%ずつ増額され、75歳まで遅らせると最大84%のプラスになります。

パターンB:国民年金(基礎年金)を加味した総合利回り

厚生年金+基礎年金の総合IRR

受給開始年齢65656565607075
平均報酬額400,000500,000600,000700,000400,000400,000400,000
75歳時点0.25%0.09%-0.28%-0.38%0.76%-0.87%-100.00%
80歳時点1.50%1.36%1.04%0.96%1.68%1.23%-0.03%
85歳時点2.23%2.10%1.81%1.74%2.25%2.24%1.73%
90歳時点2.69%2.58%2.31%2.24%2.64%2.83%2.59%

シミュレーションから分かること①:長生きすればしっかり「プラス」になる

国民年金(基礎年金)を加味したトータルの利回りで見ると、標準報酬月額が40万円の人は 75歳時点でプラス(0.25%) に転じます。報酬が60万円や70万円の人でも、80歳時点では確実に自己負担額を上回ります

男性の寿命の中央値は約85歳、女性は約90歳。 85歳時点での利回りは 1.7%〜2.2% 程度となり、長生きすればするほど得をする仕組みであることがはっきりとわかります。

シミュレーションから分かること②:「60歳繰り上げ受給」の現実味

驚くべきは、受給開始を60歳に早めた場合(繰り上げ受給)でも、65歳受給開始の場合と比べて、75歳〜85歳時点での利回りに劇的な差が生じない点です。

繰り上げ受給は月々の受給額が減額されますが、早く受け取り始める分、受取期間は長くなります。

「いつ亡くなるかわからない」というリスクを考慮すれば、個人のライフプラン次第で60歳受給も合理的な選択肢と言えます。

利回り計算から浮き彫りになる2つの「ジレンマ」

ジレンマ①:給料が高いほど利回りが下がる「所得再分配」

表Bを見ると、平均報酬額が40万円の人より、60万円・70万円の人の方が利回りが低くなっています。

基礎年金が定額給付であるため、高所得者ほど支払った保険料に対する回収率が低く設計されています。

ジレンマ②:会社負担分は「自分の給料」だったはず?

厚生年金保険料は労使折半ですが、もしこの制度がなければ、その分を給与として支払うこともできたはずで、見え方としては「会社が半分払ってくれている」ようでも、実質的には労働者の負担と大きく変わりません。

つまり、形式上は折半でも、“見えない形で労働者が全額負担している”と考える方が実態に近いということです。

この考え方を採用すると利回りは下記の表のようになります。厚生年金部分のみではずっとマイナスです。

受給開始年齢65(厚生年金のみ)65(国民年金を含む)
平均報酬額400,000400,000
75歳時点-4.65%-2.15%
80歳時点-2.73%-0.60%
85歳時点-1.59%0.32%
90歳時点-0.83%0.92%

※上記の利回り計算も、前述のシミュレーションと同じ前提(25〜60歳で厚生年金、20〜24歳は国民年金のみ)で算出しています。

結論:ちょっと微妙だが、制度としては“許容範囲”

ここまでシミュレーションを通じて厚生年金の姿を見てきました。 結論として、厚生年金は 「正直、完璧とは言えない」。 しかし同時に、「思っているほど悪い制度でもない」というのが私の評価です。

厚生年金には、確かに以下のような“ちょっと微妙”な側面もあります。

  • 将来給付は抑制される
  • 高所得者ほど利回りは下がる
  • 会社負担は実質的に自己負担では?

これらは制度の構造上、避けられない部分です。ただし、下記のような大きなメリットもあります。

インフレには“そこそこ”対応できる

国民年金の記事でも触れたように、公的年金はマクロ経済スライドによって増額幅は抑制されるものの、物価スライドによってインフレに対応することができます。

現金や民間保険の定額年金と比べれば、実質価値が守られやすいのは確かな強みです。

終身給付という“民間では再現不能”の強み

長寿化が進む中で、終身で給付が続くという仕組みは依然として大きな価値があります。 これは民間保険ではほぼ再現できない領域であり、厚生年金の大きな魅力です。

障害・遺族保障の機能がある

厚生年金は老後だけでなく、現役時代の万が一にも備えられます。 「保険」として見たときに非常に優秀で、この部分だけでも厚生年金を完全に切り捨てるのは合理的ではありません。

これらを総合すると、 「ちょっと微妙だけど、制度としては十分“許せる”」 というのが最も現実的な立ち位置だと私は考えています。

出典

・日本年金機構(老齢厚生年金・障害厚生年金・遺族厚生年金)
・日本年金機構老齢年金ガイド令和8年度版
老齢厚生年金(報酬比例部分)の計算式を参照

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